日本でのAHA ECCトレーニング・プログラム展開について

2014年4月1日現在、日本にはアメリカ心臓協会(AHA)公式ライセンスを発行できる組織が9つあります。そして、それぞれが独立した裁量権のもと、教育普及活動を行なっています。


アメリカにおけるトレーニングセンターの位置づけ

アメリカ心臓協会(AHA)の心肺蘇生教育本部は、アメリカ合衆国テキサス州ダラスにあります。

ダラスが国際統轄本部となり、各地にトレーニングセンター(TC)と呼ばれる活動拠点を設置し、AHA ECCトレーニング・ネットワークを展開しています。

トレーニングセンター(TC)は、アメリカ各地にあるアメリカ心臓協会支部とは基本的に別組織です。TCの多くは心肺蘇生法普及団体などの民間企業が契約母体となっています。つまり私企業や公的団体がAHAとの契約によりトレーニングセンター(TC)格を取得し、AHA公式コースを開催する権利を得るという構図になっています。

労働基準として心肺蘇生法(CPR)やファーストエイドスキル修得が義務となっているアメリカでは、心肺蘇生教育がひとつの産業になっており、公的団体から私企業まで様々な組織が事業展開をしています。

AHAトレーニングセンター格を持った組織の中には、競合他社とも契約し、複数ブランドのCPRライセンス発行を行なう団体も珍しくありません。また数千人・数万人規模の社員を抱える大手企業では自社内にAHAトレーニングセンターを開設し、社員の資格整備のために専任AHAインストラクターを雇うケースもあります。

このようにアメリカにおいて、AHAトレーニングセンターは自由競争原理に基づいて自由に設置されています。

これらの競合関係はスキューバーダイビングのライセンス制度ともよく似ています。AHAを含め、蘇生教育団体資格の相互乗り入れの協定が結ばれており、各団体がお互いに切磋琢磨しつつ、アメリカ国内のCPR普及と医療従事者の蘇生技術向上に貢献しています。


日本のAHA教育展開事情

アメリカ合衆国から見て、海外に設置されるAHAトレーニングセンターは、International Training Center(ITC)と呼ばれ、2014年現在、日本には9つの国際トレーニングセンター(ITC)が存在しています。

  1. 日本医療教授システム学会 国際トレーニングセンター(JSISH-ITC)
  2. 日本循環器学会 国際トレーニングセンター(JCS-ITC)
  3. 日本ACLS協会 国際トレーニングセンター(JAA-ITC)
  4. 日本小児集中治療研究会 国際トレーニングセンター(JSPICC-ITC)
  5. 福井県済生会病院(FSH-ITC)- 横浜トレーニングセンター(横浜ACLS)
  6. 国際救命救急協会
  7. 日本BLS協会
  8. 日本救急医療教育機構(JIEME-ITC)
  9. ACLS Japan

日本全国にトレーニングサイト(Training Site:TS)と呼ばれる地域活動拠点が多数存在しますが、それらのトレーニングサイトは、どれも上記トレーニングセンターのいずれかに所属し、その指導監督の下、コース展開を行なっています。

以前は、アメリカ国外のトレーニング組織はITO(International Training Organization)と呼ばれていましたが、今現在はITCという表現に改められています。

これら9つの団体(ITC/トレーニングセンター)はいずれも並列関係にあり、それぞれ独自にAHAと契約を結び、独立した裁量権・方針のもと、日本国内でAHA ECCコース展開を行なっています。

AHAコース発祥の地であるアメリカ合衆国内では、こうしたTCが何百もあり、日本において9つというのは決して多いとは言えません。今後は、日本でもAHAトレーニングセンターが新設され、ますます充実した教育環境が整備されていくことも考えられます。

トレーニングセンター(TC)

トレーニングセンター(TC)はAHA ECCトレーニングプログラムを普及推進する活動母体です。 2014年4月現在、日本には9つのTCが存在し、独自裁量のもと日本全国で活動を展開しています。

TCはAHAと契約を結んだ活動法人であり、トレーニングセンター・ファカルティ(TCF)、AHAインストラクターの育成・認定を行ない、プロバイダーカードの発行業務を行ないます。

AHAインストラクターは、インストラクター履歴管理の必要上から、ひとつのトレーニングセンターに登録されることが求められていますが、これは特定のトレーニングセンター内での活動に限定されることを意味するものではありません。

AHAインストラクターは複数のトレーニングセンターにまたがって活動することが認められています。AHA ECCプログラム運営マニュアル 25ページに明記されているとおりです。 所属トレーニングセンターを プライマリー・トレーニングセンター Primary TC と言いますが、プライマリーTC以外のトレーニングセンターの活動に参加する場合の具体的な手続きは、Course Roster と呼ばれるAHA ECCコース開催報告書に記されています。すなわちコース終了後に Course Roster に記名と署名するだけではなく、インストラクターカードのコピーを提出することが求められています。


トレーニングサイト(TS)

トレーニングセンター(TC)は、トレーニングサイト(TS)と呼ばれる活動拠点を複数設置することができます。正式に登録されたトレーニングサイトはTCの権限の一部であるカード発行業務とプロバイダーコースの筆記試験の管理を行なうことが許されます。またそのために定期的に査察を受ける義務が生じます。

AHAインストラクターはTCに所属する義務がありますが、トレーニングサイトへの所属は求められていません。

世界にはトレーニングサイトを持たないトレーニングセンターも多く、JSISH-ITCにおいても、トレーニングサイトに所属するという明確な概念は存在しません。トレーニングサイト/活動拠点は複数存在しますが、サイトでの活動に限らず、TC直轄として登録されたインストラクターたちが日本各地で、個人普及活動としてAHAコースを開催しています。

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AHA ECCプログラムはビデオ教材を使用し、さらにレッスンマップと呼ばれる指導マニュアルにより、コース運営方法が厳格に定められています。それゆえに世界中でばらつきのない同等の教育が行なわれています。

ですので、日本国内はもとより、世界のどのトレーニングセンターでコースを受講してもその質は変わりません。そして、どの団体が発行するAHA修了カードも等価であることがAHAプログラム運営マニュアル(PAM)に規定されています。